見るために生まれ,
物見よと定められん,
この塔にかけ誓わん
世の中いと麗し。
じっと眺むる彼方,
しかと望むる此方,
月も星も,
森も鹿も。
而してなべて何処(いずく)
永遠(とわ)の飾り映らん
己の好むが如く,
吾は吾も好まん。
汝幸(さち)なる眼(まなこ),
汝(な)が目で見たるは
望むが如く
げに美しかりき!

Λυγκεύς(リンケウス)はギリシアのペロポネソス地方メッセーネー王アパレウスの息子と言われている。リンケウスの名前がλύγξ(lynx=大山猫)から来ているように,リンケウスは夜目が効く視力の持ち主。森に隠れていた敵兄弟を看破し兄と一緒に倒した事になっている。GoetheはFaust第2部第3幕でこの人物を鐘楼守として登場させ,自らの領民・領土の監視役をさせる。そこで独白するのがこの台詞なのだ。この後リンケウスはフィレモンとバウキスの悲劇を目にし嘆く。
よく Goethe のことを Augenmensch(目の人)と形容する。彼は見ることで信じ,考えた。色彩論や原植物の発見など自らの眼を通して神秘的とも言える発言をした。それが例え自分以外の人間には見えないものであっても,彼の目には実在していたのだ。この感性こそが詩人の目なのだろう。
この詩のリズムは
|弱強弱|弱強弱|
|弱強弱|弱強|
の4歩格を2回繰り返し,4連作る事で構成されている。通常ギリシア由来の韻律では
|強弱弱| の組み合わせδάκτυλος(ダクテュロス) かその逆の|弱弱強| の組み合わせἀνάπαιστος(アナパイストス)はあるが、このような|弱強弱|の組み合わせはない。
いわばGoethe の独創的韻律と言えるか。和訳にあたっては原詩の韻を出来るだけ合わせてみた。
原詩は以下の通り
Zum Sehen geboren, |弱強弱|弱強弱| (韻は[oːrən])a
Zum Schauen bestellt, |弱強弱|弱強| (韻は[əlt]) b
Dem Turme geschworen |弱強弱|弱強弱| (韻は[oːrən])a
Gefällt mir die Welt. |弱強弱|弱強| (韻は[əlt]) b
Ich blick in die Ferne, |弱強弱|弱強弱| (韻は[ɛrnə])c
Ich seh in der Näh, |弱強弱|弱強| (韻は[ɛː]) d
Den Mond und die Sterne, |弱強弱|弱強弱| (韻は[ɛrnə])c
Den Wald und das Reh. |弱強弱|弱強| (韻は[eː]) d
So seh ich in allen |弱強弱|弱強弱| (韻は[alən])e
Die ewige Zier |弱強弱|弱強| (韻は[iːə]) f
Und wie mir’s gefallen |弱強弱|弱強弱| (韻は[alən])e
Gefall ich auch mir. |弱強弱|弱強| (韻は[iːə]) f
Ihr glücklichen Augen,
Was je ihr gesehn,
Es sei wie es wolle,
Es war doch so schön!