青い瞳で ニッコリと
ボクを見つめる キミがいる
気持ちが高まり 夢見ると
何も言えない ボクがいる
青い瞳の キミのことで
ボクは頭が いっぱいだ
青い想いが 海になり
ボクの心は 溢れんばかり

Heinrich Heine "Neue Gedichte" からの短いがとても愛らしく艶かしい一片。
この詩は尾上柴舟の『ハイネノ詩』では
みどり色濃き君が眼の
やさしく我に向ふとき
ものも言はれずになりにけり
夢見る如きこゝちして
と blau が glün で表現されている。日本語の「あを」とはドイツ語の blau 以上に色彩の幅が広い証かも知れない。
原詩のリズムは基本は「弱強」だが,箇所によっては「弱弱強」になっている部分もある。韻もそれ程厳密に踏んではおらず一行目と三行目は Augen - Sinne で韻になっていない。また五行目と七行目は Augen - Gedanken で末尾の /en/ だけで /gen/ とは踏んでいない。
大雑把だがとても感情のこもった可愛い詩だと思う。
この詩には Richard Strauss (1864-1949) が歌曲に仕立てた作品が有名だが,Strauss の歌曲は少し形式的な感じがしてこの詩の良いところが掴みにくくなっているように思う。もう一人 Fredelick Delius (1862-1934)も曲をつけており,こちらの方が私にはピッタリだと感じる。特に最後の "ergieß sich über mein Herz" が本当に心に青い海が注がれ溢れていく感覚をもたらしてくれるからだ。
私の訳詩は尾上柴舟と同じく,七五調でまとめてある。また,脚韻もできる限り印象づけられる言葉で再現してみた。ただし口語で,どちらかというと歌謡曲にもなりそうな現代口調で,ハイネの抱いた,青い目の女性への想いが口をも閉じさせるその刹那を,まるで喫茶店で向かい合わせに座るカップルのような体験を,日本語にした。