MEMENTO MORI AT CARPE DIEM

ποιέω καί ἑρμηνεύω

ホイリゲ(新酒)の歌

11月は収穫の月。

欧州では新酒のワインが楽しめる様になる月。

 


新酒の歌


恋煩いで、どこへ行く?

いい街がある、ここしかないさ

世界のこころのど真ん中

すぐに酔える、良い街さ。

 


神様の滴

維納のワイン 維納のワイン

娑婆じゃ作れない

メイド・イン・パラダイス

葡萄酒で夢みよう

キミのこと、見てるぞ:

神様の滴

維納のワイン 維納のワイン

 


維納の昔のお話は

この街生まれに聞かなきゃダメよ。

桜の咲いてる街へ行け

農家がすっかり聞かせるよ。

 


神様の滴

維納のワイン 維納のワイン

娑婆じゃ作れない

メイド・イン・パラダイス

葡萄酒で夢みよう

キミのこと、見てるぞ:

神様の滴

維納のワイン 維納のワイン

 


1931年のドイツ映画 „Der Kongress tanzt“(「会議は踊る」)でロシア皇帝と街の売り子がデートをするシーン。ここで披露されるのが「新酒の歌」11月になるとウィーン各地に Heurige(ホイリゲ)が飲めるようになり、ウィーンっ子は新酒に舌鼓を打つ。フランスのボジョレーヌーボーの様なものだ。

ドイツ語圏でもオーストリアはワイン文化の国。赤白合わせて40種類もの葡萄の品種があり、オーガニックも盛んだ。

そんなワイン文化花開くウィーンで、あり得ない様な夢の世界に微睡む手袋屋のクリステルとロシア皇帝アレクサンドル1世。新酒の出来上がるウィーンでホイリゲを味わえば、恋煩いも癒される。そして新しい恋も始まるかも知れない。

この映画の主題歌にもなっている、 Das ist nur einmal, das kommt nie wieder. (ただ一度だけ、もう二度と来ない) は刹那的だが今を十二分に楽しもうとするウィーンっ子の心情をよく表している。

 


原詩は次の通り

拙訳は出来るだけ歌詞として存在できるようにメロディーに合わせて和訳した。よって原詩を汲んだ意訳が中心となっている。

 


Wenn du verliebt bist und weißt nicht wohin,

dann gibt's nur eine Stadt, die hat, was keine hat!

Die liegt im Herzen der Welt mittendrin,

hast du an Rausch mal dort, weißt du's sofort:

 


Refr.:

Das muss ein Stück vom Himmel sein,

Wien und der Wein! Wien und der Wein!

Das ward auf Erden nicht erdacht,

denn das ist so himmlisch gemacht!

Sitzt man verträumt in Wien beim Wein

und nicht allein, dann sieht man's ein:

Das muss ein Stück vom Himmel sein,

Wien und der Wein! Wien und der Wein!

 


2.

Das sind die alten Geschichten von Wien,

frag nur ein Wiener Kind, wo sie zu hören sind!

Geh vor die Stadt, wo die Kirschbäume blühn,

und jedes Bauernhaus plaudert's dir aus:

 


Refr.:

Das muss ein Stück vom Himmel sein ...

 

youtu.be

 

グレートヒェンのモノローグ

こころ安からず、

苦しこの想い

安息を求むるも

佇む所なし。


彼を得ざる處、

我が身の墓場

遍く世より

喜び奪われん。


哀れ我が理性

悶え狂わん

哀れ我が正気

微塵に砕け散らん。


こころ安からず、

苦しこの想い

安息を求むるも

佇む所なし。


窓辺より

彼の姿追い眺む、

屋敷より

彼の姿追いかけん。


彼の強き歩み

彼の気高き姿

彼の口元の微笑

彼の眼の力。


彼の語りは

魔法のごと

力強き手の握り

ああ、彼の口づけ!


こころ安からず、

苦しこの想い

安息を求むるも

佇む所なし。


我が胸は

彼が為に高鳴る

嗚呼、彼を抱きし

幸せあれかし!


口づけするは

我が望み

彼が口づけは

我をば消さん。


ゲーテファウスト』第一部の有名な獨白詩。

ファウストによって戀に目覚めた少女グレートヒェンが、戀愛から性愛へと移り行くにつれ、ファウストとの逢引きが忘れ得ぬ快楽となって片時も我慢出來ぬ狀態となってしまう。

ファウストはそんな罪作りな事をしでかしたにも拘らず、メフィストの導きでワルプルギスの夜に參加して羽目を外している有様。

訪れる事のないファウストにグレートヒェンの求める気持ちは怪物の様に巨大化し、彼女は思わずこの獨白を語る。原詞は以下の通り。


Meine Ruh ist hin,

Mein Herz ist schwer;

Ich finde sie nimmer

Und nimmermehr.


Wo ich ihn nicht hab

Ist mir das Grab,

Die ganze Welt

Ist mir vergällt.


Mein armer Kopf

Ist mir verrückt,

Mein armer Sinn

Ist mir zerstückt.


Meine Ruh ist hin,

Mein Herz ist schwer;

Ich finde sie nimmer

Und nimmermehr.


Nach ihm nur schau ich

Zum Fenster hinaus,

Nach ihm nur geh ich

Aus dem Haus.


Sein hoher Gang,

Sein’ edle Gestalt,

Seines Mundes Lächeln,

Seiner Augen Gewalt,


Und seiner Rede

Zauberfluss,

Sein Händedruck,

Und ach sein Kuss!


Meine Ruh ist hin,

Mein Herz ist schwer,

Ich finde sie nimmer

Und nimmermehr.


Mein Busen drängt

Sich nach ihm hin.

Ach dürft ich fassen

Und halten ihn!


Und küssen ihn

So wie ich wollt,

An seinen Küssen

Vergehen sollt!

 

youtu.be


基本は弱強格(Jambus)の二歩格(Dimeter)で、俗に Bacchius(バッカス格)と呼ばれる韻律になっている。

Und küssen ihn

So   wie ich wollt,

An   seinen  Küssen

Ver-geh-en sollt!

|  X    X́  | X     X́  |


ただし全てが整然とそうなってはいない。

Seines Mundes Lächeln,

| X́  X  |  X́     X |  X́    X |

Seiner  Au-gen Gewalt,

| X́  X  |  X́     X |   X   X́ |


內容的には少女の獨白なので口語文が良かろうが、口語にすると艶めかしく、韻文にしづらい。


Und küssen ihn

So wie ich wollt,

An seinen Küssen

Vergehen sollt!


【口語試訳】

そして、あの人に

キスしたくてしたくて、

あの人のキスで

私は消えてしまうでしょう。


【文語訳】

口づけするは

我が望み

彼が口づけは

我をば消さん。

 

ファウスト』のこの先の下りは、グレートヒェンが身籠り、独りで悩んだ挙句に産み落とした赤子を沼に沈めて殺してしまう。嬰児殺しで牢に入れられたグレートヒェン。目前に迫る死刑執行の直前に、ファウストが脱獄の手引きをしようとやってくる。これ以上の罪を犯す事を拒絶する狂乱したグレートヒェン。全てを神に委ねる。その時この手遅れの状態にメフィストは語る。

 

Sie ist gerichtet! (女は裁かれた!)

 

すると天上から声が響く。

Ist gerettet! (救われた!)

 

 

Die veränderte Liebe

Glaube ohne Trauen,

Betrug ohne Tränen.

Kaltblutig tapfer

Tat sie es schamlos.

Liebes Hass wird Hasses Leb’n,

Leidenschaft ruft Eifersucht,

süß’ Gefühl zur Eis-Verachtung,

Flammend’ Wut brennt grün und blau aus.

Wie schön waren Liebestage,

wenden sich zu Reuetagen.

Steht ein’ kalte Rache auf.

Rettungsloses Herzensloch

Rachesschwert draus springt mit Zorn

Nur eine Hoffnung, Geliebt‘ ihr Tod!

 

オペラや歌曲のテキストとして作詞してみた。

ヴェルディの『オテロ』にある「大理石の如き天にかけて誓う」の復讐の歌よろしく、激しい愛情が身の毛もよだつ憎しみに変わるドラマティックなメロドラマを想定した。

基本的に強弱格の四歩格だが、冒頭の四行は三歩格に止まっている。

Cold Song 「凍てる歌」

如何な力か汝が者は

深き底より

我を起こさん

心ならずも寝所より

万年雪が閨(ねや)なりき

 

氷の如く強(こわ)ばりし

老いに老いたる我なれば

寒さにいづる術(すべ)はなし

 

我は動けぬ

息も絶えなん

我は動けぬ

息も絶えなん

 

我は望まん

我は望まん

凍てつくこの身を

我は望まん

凍てつき又ぞ死せるを望まん

 

最近は平沢進により有名になったパーセル作曲の「アーサー王」からCold Song。1980年代には,Klaus Nomi による歌唱で一躍イギリスバロックオペラアリアが歌謡曲のジャンルで名を馳せることになった。

今回ある舞台でこの曲をバックに朗読がなされた。愛と死をテーマに上せられたその舞台でも Klaus Nomi の歌唱が流された。

 

youtu.be

 

原詩は以下の通り。英語が古いので, 欽定訳聖書のように youではなく thou が使われている。thou art = you are, thou seest = you see

 

written by John Dryden (1631-1700)

What Power art thou,

Who from below,

Hast made me rise,

Unwillingly and slow,

From beds of everlasting snow!

 

See'st thou not how stiff,

And wondrous old,

Far unfit to bear the bitter cold.

 

I can scarcely move,

Or draw my breath,

I can scarcely move,

Or draw my breath.

 

Let me, let me,

Let me, let me,

Freeze again...

Let me, let me,

Freeze again to death!

 

原詩が古めかしい英語であるので,訳詞もできるだけ格調の高い文語文で考えてみた。

七五調で纏めることには成功したと思う

 

fortuna fortunarum

Wäre sie mir Femme fatale,

Mach’n ich mit ihr Suizid soll?

 

ein trauriger Mann führt einen Monolog.

Ist sie mir wohl Femme fatale?

Schlägt mein Herz doch schmerzenreich,

wenn sie etwas ausgesagt.

Bin ich mich in sie verliebt?

O, ich armer verdammter Mann!

Sie hat schon das Leben satt.

Zu dem Sterben, macht sie alles,

was sie mag und g'nießen will.

So muss ich mich nun entschließ'n,

Dass ich mit ihr Welt verlass'n,

wenn wir uns einander lieb'n.

Ist das Schicksal, unvermeidlich?

Wäre sie mir Femme fatale,

Mach’n ich mit ihr Suizid soll?

 

あるメロドラマの独白として詩作してみた。

生きることに絶望し,死を望む娘に魅入られた者が

永遠の愛の証として心中を決意する場面。

ゲッセマネの祈りのような告白を想定している。

 

韻まではあわせれらなかったが,リズムは (Trochäus Tetrametron) 強弱格4歩格でドイツ語ではよくある詩業である。

 

 

« Con Te Partirò » (君と旅しよう)

« Con Te Partirò » (君と旅しよう)


ひとり寂しく

海の向こうを想う

言葉にならないこの気持ち

陽が射さぬ

光のない部屋

そう,君がいないから,そばに,僕のそばに

窓という窓から

みんなに見せて

僕と繋がった君が

火をつけた僕の心を

僕の中に

君が閉じ込めた光

君が街角で出会ったあの光を

 

君と旅しよう

まだ見たことのない,

尋ねたことのない国へ,君と

そう,そこで暮らそう

船にのって,海を渡って

そうさ,

現(うつつ)にはないんだ

そこで君と暮らそう

 

君と遠く離れ

海の向こうを想う

言葉にならないこの気持ち

そうだね,

君は僕と一緒,一緒にいる

君は僕の月,いつも一緒

君は僕の太陽,いつも一緒

一緒,僕と一緒

 

君と旅しよう

まだ見たことのない,

尋ねたことのない国へ,君と

そう,そこで暮らそう

船にのって,海を渡って

そうさ,

現(うつつ)にはないんだ

君とそこで僕は生まれ変わる

君と旅しよう

 

僕は君と…

 

 

盲目のテノールとして有名な Andrea Bocelli のこの歌。Sarah Brightman とのデュエットによる “Time to say good bye” で世界的に有名になったが,あれはドイツのボクシング選手の引退試合用にアレンジした歌詞に変更しており,もともとの原曲は別れの歌ではない。”Con Te Partirò” は英語に直せば “I'll leave with you.” である。愛する人と新しい世界へと旅立つ恋愛至上主義の詩なのである。

 

有名な曲なので様々な方々が訳詞を試みているが,残念ながら歌うために意味を把握する目的で訳されているのだろうか,直訳に近いものが多い。イタリア語をGoogle翻訳してアレンジしたものもあるようだ。

 

例えば  all'orizzonte は「地平線で」とも「水平線で」ともとれるが,後半に su navi per mari 「船で海を越えて」とあるのだから,水平線が適訳であろう。ただし sogno all'orizzonte を「水平線で夢をみる」と直訳しても全く理解ができない。これは「佇んで水平線を眺めて何かを夢見る」程度の意味だろうから、私は「海の向こうを想う」と日本語にした。

 

原詞のイタリア語の中で,特に動詞の人称変化を曖昧に訳しているものが多いが,例えば主語が io (1人称単数)なのか tu (2人称単数)なのか位は明確に意識して訳すべきである。

Se non ci sei tu con me, con me

Su le finestre

Mostra a tutti il mio cuore

Che hai acceso

Chiudi dentro me

La luce che

Hai incontrato per strada

上記のイタリア語テキストのうち,動詞 sei, mostra, hai, chiudi は全て主語は2人称単数の tu である。mostra は命令法であり,これを同じ形になる3人称単数と誤解すると意味が全く不明になる。イタリア語は主語の人称代名詞を置かない言語であるから,いい加減に訳してしまいやすいのかも知れないが。

 

イタリア語の原詞からキチンと意味を汲んで,筋の通った日本語に作詞してみた。残念ながら歌詞として歌えるようには出来ていない。いずれ手直しして歌えるものに改良したい。

Bocelli 初来日コンサートでこの歌を直に聴いた思い出,あの伸びるテノールは永遠に私の耳に残っている。


原詞は以下の通り

Quando sono solo

Sogno all'orizzonte

E mancan le parole

Sì, lo so che non c'è luce

In una stanza quando manca il sole

Se non ci sei tu con me, con me

Su le finestre

Mostra a tutti il mio cuore

Che hai acceso

Chiudi dentro me

La luce che

Hai incontrato per strada

 

Con te partirò

Paesi che non ho mai

Veduto e vissuto con te

Adesso, sì, li vivrò

Con te partirò

Su navi per mari

Che io lo so

No, no, non esistono più

Con te io li vivrò

 

Quando sei lontana

Sogno all'orizzonte

E mancan le parole

E io sì lo so

Che sei con me, con me

Tu mia luna tu sei qui con me

Mio sole tu sei qui con me

Con me, con me, con me

 

Con te partirò

Paesi che non ho mai

Veduto e vissuto con te

Adesso, sì, li vivrò

Con te partirò

Su navi per mari

Che io lo so

No, no, non esistono più

Con te io li rivivrò

Con te partirò

Su navi per mari

Che io lo so

No, no, non esistono più

Con te io li rivivrò

Con te partirò


Io con te

 

youtu.be

 

2023年6月15日のあなたへ

好事家Genetには思わず注視したくなる華がある

幼児(おさなご)の如く愛すべき純粋さ・素直さがある

その一方で内に秘めた賢しさ・狡猾さもある

しかしこれらのMerkmal(メルクマール) を見せる根底には,

不条理を愛さざるを得なくなったこの人の Lebensschatten(レーベンスシャッテン=人生の影)がある

 

www.youtube.com

 

いつもブレずにご自身の趣味を追いかけて,充実させているこの人を私は評価している。

彼女のチャンネルのコンセプトは

「耽美で退廃的でエログロナンセンスなカルチャーを文化史や美術史の観点から読み解いていく、孤高の好事家のためのサロン」

趣味の世界なので専門的に語るわけではないが,ご自身の集められる限りの文献資料や参加したイベント体験で,趣味を極めるべくご自分の好きな分野の複合体を動画化されている。そしてご本人がそれを好きで好きでたまらない表情で語り尽くすのである。

その彼女には壮絶な過去体験があるようだ。それを克服しての今ではなく,それを引摺りながらの今が,マイナスのエネルギーが原動力となって闇のカルチャーを極める趣味人として Youtube を介して発信しているのである。あくまでも個人の趣味チャンネルとして。潔いしブレないところが私の心を留めている。

その彼女が誕生を堕獄と称してライブをするのに合わせて彼女について文章にしたのがこの5行である。

ご本人が気に入ってくれたのは正直嬉しかった。